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おに
鬼
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页
のを気附かぬ筈はなかった。
なお念の為に、履物を調べさせて見たけれど、雪子のは勿論、婆さんの履物も、一足もなくなっていないことが分った。
雪子が外出しなかったことは、最早疑う余地がないのだ。ではもう一度二階を調べて見ようと、梯子段を上り、押入れの中や、天井裏まで覗いて見たが、やっぱり人の気配はない。
「この窓から屋根伝いに逃げたんじゃないかな」
警官が窓の外を眺めながら口走った。
「逃げたって? 何かあの人が逃げ出す理由でもあるのですか」
殿村がびっくりした様に聞き返した。
「若しあの女が、共犯者であったとすれば、僕の声を聞いて逃げ出さぬとも限りませんよ。併し、それにしても……」
警官はその辺の屋根を眺め廻して、
「この屋根じゃ、どうも逃げられ相もないな。それに、すぐ下の線路に、多勢工夫がいるんだし」
如何にも窓の下は、すぐ駅の構内になっていて、何本も汽車のレールが並び、その一本は、修繕中と見えて、四五人の工夫が鶴嘴を揃えて仕事をしている。
「オーイ、今この窓から、線路へ飛び降りたものはないかあ」
警官が大声に、工夫達に尋ねた。
工夫達は驚いて窓を見上げたが、無論雪子がそんな人目につく場所へ飛降りる筈はなく、彼等は何も見なかったと答えた。