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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

「あとを閉めてはいれ」

江戸南町奉行、大岡越前守忠相である。外桜田のお役宅、書院作りの奥の一間だった。

夜である。きょう数寄屋橋畔の奉行所から帰った忠相は、何か思うところあってか、日本橋長谷川町へ下僕を走らせて、同町内の目明し親分、金山寺屋の音松をお呼び立てになったのだった。それきり自身は、この奥の書院に端坐して、むずかしい問題で頭を捻っている時の習癖で、碁盤を前に、独り碁……と言っても、法どおり石を置いて、攻め手守り法を攻究しているのではない。ただ、黒白の石を掴んでサラサラと盤に落とし、あるいは黒を動かし、時には白石を種々に移して、言わばでたらめで――そのあいだには、これも沈思の時の癖で、越州はしきりに爪を噛んでいるのだ。澄々たる碁石の音を楽しんでいるようにも見える。こうして何か考え事があるとき、盤に向って碁を弄びながら、その間に策を講ずるのが、この大岡越前守忠相のやり方だった。

で、そうして独り何事か考えに沈んでいるところへ、呼びにやった金山寺屋の音松が来たのだ。夜、急にお奉行様のお役宅から、お召立てになったのだから、一体何の御用だろうと思う先に音松は、もう自分が罪人にでもなったようにがたがた震えている。