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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
人を使うものはああでなければならない。有難い、ありがたい。あの幸吉がいるあいだ、この筆屋の屋台骨は小ゆるぎもしますまい。ありがたいことだ。幸吉がああいう調子なら、筆屋も筆紙類ばかりでなく、質両替油渡世のほうにも手を出して、かねがね長庵さんを通して脇坂様の殿様にお取り持ちを願ってあるように、やがては、同じ越後の柏崎出のあの伊豆屋伍兵衛を蹴落して、この筆屋が成り変ってお城の御用を仰せつかることも出来ようというものだ」
すっかり嬉しくなっちまった筆屋幸兵衛、思わず大声に、茶の間のおかみさんに話しかけた。
「婆さんや、よろこびな――筆屋は万々歳だ。この屋台骨はびくともしねえぞ!」
いきなり呼びかけられて、何の話だか知らないから、おかみさんは新しい建前のことだとばかり思って、
「当り前じゃアありませんか。きょう棟上げをした許りですもの。そんなにすぐ屋台骨がぐらついて耐るもんですか」
感ちがいしている。何を言やアがる、婆さんこの頃すこし耄碌して来たぞ、と、筆屋幸兵衛は呟いた。
三
「それでは殿様、わたくしはこれで失礼を――」
「おう、長庵、帰るか。では、な、琴二郎をあやつって聞き出すこと、よっくその方に頼んだぞ」