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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

から、やにわに、金山寺屋の音松の笑い声が聞えたのだった。

「お! こりゃア喧嘩渡世の旦那じゃアござんせんか。ついお見それ致しやして、面目次第もござんせん。あははは、あなたさまは、神田帯屋小路の茨右近さまでございましたね」

見事に取り違えた――のか、それとも、これは何か訳があると白眼んで、黒門町に義理を立てて喬之助を助けるために、とっさに似た人を思い出して、わざと間違えたのか――とにかく金山寺屋の音松が、笑い出してそう言うから、渡りに船とばかりに、ホッと張り詰めていた気を抜いた壁辰が、

「ははははは、金山寺の、とうとう気がついたか。おめえの眼は、さすがに高えや。いかにも、このお方は、おめえの今言った、神田帯屋小路の――」

「喧嘩渡世の茨右近さま。なア、それに違えねえのだ」

いよいよ情を知って助けるつもりとみえる。金山寺屋の音松は、眼顔で知らせながら、教えるようにいったのだった。

それを、逸早く、神尾喬之助も飲みこんで、

「いや、好奇から、かように下らぬ服装をしておるため、何かは知らぬが、あらぬ嫌疑をこうむり、えらい人さわがせを致したな。まま許せ、許せ」と笑って、それから満谷剣之助へ向い、「これはお役人、ただいまこの者が申すとおり、手前はその、茨右近でござる」