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すし

鮨

岡本 かの子

「文芸」1939(昭和14)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,272 字 · 26 页

青空文庫

と子供の食事を覗きに来た。一つは時勢のためでもあるが、父親は臆病なくせに大ように見せたがる性分から、家の没落をじりじり眺め乍ら「なに、まだ、まだ」とまけおしみを云って潰して行った。子供の小さい膳の上には、いつものように炒り玉子と浅草海苔が、載っていた。母親は父親が覗くとその膳を袖で隠すようにして

「あんまり、はたから騒ぎ立てないで下さい、これさえ気まり悪がって喰べなくなりますから」

その子供には、実際、食事が苦痛だった。体内へ、色、香、味のある塊団を入れると、何か身が穢れるような気がした。空気のような喰べものは無いかと思う。腹が減ると饑えは充分感じるのだが、うっかり喰べる気はしなかった。床の間の冷たく透き通った水晶の置きものに、舌を当てたり、頬をつけたりした。饑えぬいて、頭の中が澄み切ったまま、だんだん、気が遠くなって行く。それが谷地の池水を距ててA―丘の後へ入りかける夕陽を眺めているときででもあると(湊の生れた家もこの辺の地勢に似た都会の一隅にあった。)子どもはこのままのめり倒れて死んでも関わないとさえ思う。だが、この場合は窪んだ腹に緊く締めつけてある帯の間に両手を無理にさし込み、体は前のめりのまま首だけ仰のいて