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はとつかい

鳩つかひ

大倉 燁子

「富士 九巻八号」1936(昭和11)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,680 字 · 30 页

青空文庫

「赤星さん、この方が、至急何かお知らせすることがあるそうです」

赤星は課長室を出て行ったが、間もなく戻って来て立松の前に名刺を置き、

「本田桂一という学生だが、杉山氏が射たれた時恰度通りかかり、犯人の顔を見たって云うんです。委しく聞いておきました。その学生は鈴ヶ森の近所の小さなアパートで自炊しているそうです。――今、階下で新聞記者連に取巻かれているからきっと、夕刊にその記事が出るでしょう、ただ顔を見た、という事だけは云ってもいいが、その他の事は決して話してはならぬと厳重に口留めしておいた、その記事を見たら犯人が狼狽えるだろう」と云って、赤星は急に活気づいた。立松は焦り焦りしながら皮肉な笑いを唇に浮べて、

「売名だろうよ。殊に犯人の廻し者かも知れない、迂闊に信用すると赤ッ恥をかくぞ」

赤星は黙っていた。部屋の隅では鳩が不安そうに羽ばたきしている。

「ちょっと、鳥籠を借りて行きます」

立松の返事も待たないで鳥籠を風呂敷に包んで出て行った。

二時間ばかりして戻って来た時には課長はもう部屋にいなかったので、鳥籠だけをもとのところに返しておいた。

赤星は杉山を見舞いに行く途中で夕刊を一枚買った。