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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
「なるほど、もうそんなこともありそうな年頃。では、ついでをもって伺うが、その千絵女のほかに、お綱と申すものの消息をお知りなさるまいか」
「お綱? ……それはまた何者でござりますな」
「実を申すと、母違いの娘でござるが」
「ひと頃、大阪表を立ち廻っていた、女スリの見返りお綱という者はござったが? ……」
「いや、それは全く別人じゃ」
「無論、そのお綱ではござりますまい。だが、ほかにはお綱というような名は、誰の口からも聞いたことがなかった……」
「ないのが当然でござろう、親子の情、お笑い下さい」
「しかし世阿弥殿。ただ今お告げした通り、弦之丞殿が江戸へついた暁には、さだめし、それらの消息や、また公儀の旨をふくんで、いつかは一度、この山牢へも訪れるものと察しられる。必ずともそれを信じて、気を落さぬように」
「十一年ぶりで、初めてその吉報を聞きますわい。そうあればお手前もなおのこと、御短気をなされずに、阿波の密謀が公となって、幕府よりお救いのある日をお待ちなさるがよい」
「ところが……」と、一八郎は暗然として、
「某の命は旦夕に迫っています。それで……」
といいかけるうちに、もう彼の面には、ありありとした死相がうかんでいた。