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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
けれど形の上では、もう誰が目にも、お米は啓之助の囲い女、宅助はその番人という態になっているのを否めない。
ただ、幾分か、お米にとってよろこぶべきことは、あの癆咳の病のかげが、大阪にいた頃より大層よくなっていることだった。瞼のあたりの青いかげや、病的であった頬の肉艶、それがズッと健康らしく見えてきた。
環境が変ったからであろう。
お米の囲われている寮のあり所が、海気と松風に恵まれている地に相違ない。
黙って歩くと道が遠い。
何の用向きをもってきたのか、指して行く剣山の麓までは、まだなかなか道のりがありそうだ。
「こいつはいけねえ、とうとうこじれやすいお米をこじらしてしまった」と、仲間の宅助が後からテクテク供をしながら、少ししゃべりすぎたかなと後悔した。そして、何とかひとつご機嫌をとり結ばなくっちゃ……と思っていると、
「おウい――」と、突然。
うしろのほうから遠呼びに手を振ってくる男がある。
「おーい」とまた一度呼びとめて、こっちへ急いでくる者をふりかえると、顔は見えない、一文字の笠、ヒラヒラするのは縞合羽だ。
「誰だろう。こんな所で呼ばれる者はない筈だが……」