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とびとかきととり
鳶と柿と鶏
豊島 与志雄
「知性」1939(昭和14)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,493 字 · 21 页
「眺めてる方がいいじゃないか。」
「ええ。」
「捕らない方がいいじゃないか。」
「ええ、捕らないでも、よいのです。」
わざわざ穽を仕掛けたというのに、甚だ頼りない返事だった。
二羽の鳶はいつまでも舞っていた。その舞い方は全く蒼空という感じだった。宙にふわりと浮いて而も翔ってるからであろうが、やがて一羽が、ゆるく羽ばたきだしたと見るまに、高く高く、蒼空のうちに昇ってゆき、他の一羽もそれに随い、山の彼方に消えていった。
「先生、柿をたべにいきましょう。」
鳶のあとを見送ってぼんやりしてる吉村へ、李はふいに呼びかけて、立上って歩きだした。それから声を低めた。
「鳶のこと、上山さんには、黙っといて下さい。」
「なぜだい。」
「びっくりさしてやりたいんです。」
捕れるものかと吉村は思ったが、李の言葉をそのまま取って、微笑ましい気持になった。そして君枝のところまでついて来た。
君枝の庭には、裏口に近い一隅に、黒い鶏が二羽飼ってあった。植木屋が黒い鶏の卵は特別に病人によいといって、小屋から鶏まで世話してくれたのだとか、君枝は云っていたが、それが、シャモの雑種なので、吉村は君枝に対するのと同じように親しみが持てない気持だった。