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たかをもらいそこなったはなし

鷹を貰い損なった話

寺田 寅彦

「行動 第二巻第八号」1934(昭和9)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,283 字 · 3 页

青空文庫

外の事は覚えていないがただ一事はっきり覚えているのは、この子が自分にときどき梟をやろうとか時鳥をやろうとかまた鷹をやろうとかいう申し出しをしたことである。但しそれには交換条件があって、おまえのもっている墨とかナイフとかを呉れたら、というのであった。自分はどういう訳かその鷹がひどく欲しかったので、彼の申込みに応じて品は忘れたが彼の要求するものを引渡した。そうしていよいよ鷹が貰えると思って夜が寝られないほど嬉しがったものである。鷹を貰ってからのことを色々空中に画いてはエクスタシーに耽ったものと見えて、今でもなんだか本当に一度鷹を飼ったことがあるような気持がすることがある、もちろん事実は鷹などかつて飼った経験はないのである。

明日はいよいよ鷹が貰えると思ってさんざんに待ちかねて、やっとその日になってみると鷹は今ちょうどトヤに入っているからもう二、三日待ってくれというのである。ひどくがっかりして、しかし結局あきらめて辛抱して待って、さてもういいかと思って催促すると、今度は何とかがどうとかして何とかで工合が悪いからもう二、三日待てという、その何とかが実に尤千万な何とかで疑う余地などは鷹の睫毛ほどもないのだから全く納得させられる外はなかった。