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おうむぐらかえくびでんせつ

鸚鵡蔵代首伝説

国枝 史郎

「冨士 特別増大号」1937(昭和12)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,083 字 · 26 页

青空文庫

「お蔵って、鸚鵡蔵のことかい」

「ご存知で。これはこれは。へい、さようでございます、その鸚鵡蔵の、裏の竹藪の中に、安置されてあるのでございますがな、朝、昼、晩と、三度々々お斎を供えなければなりませんので。それが納谷家に伝わる、長い間の習慣で」

「地蔵様がお斎を食べるのかい?」

「さようでございます」

「嘘お云いな」

「あッハッハッハッ。……いずれは野良犬か、狐か狸か、乞食などが食べてしまうのでございましょうが、とにかくお斎は毎日綺麗になくなります」

「飯食い地蔵。……見たいな」

「およしなさいまし。あの方角へは、まずまずおいでにならない方がよろしゅうございます」

「お姉様も、昨日、そんなことを云ったよ。鸚鵡蔵の方へは行かない方がいいって」

「さようでございますとも、魔がさしますで」

行過ぎる嘉十郎のうしろ姿を見送りながら、菊弥は、鸚鵡蔵の由縁を、一番最初に自分へ話してくれた、お綱という女のことを思い出した。その女は、彼が目差す川路の郷を、目の下に見ることの出来る峠まで辿りついたので、安心し、疲労た足を休めているところへ、突然、樺の林の中から出て来て、からかった女であった。