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おうむぐらかえくびでんせつ
鸚鵡蔵代首伝説
国枝 史郎
「冨士 特別増大号」1937(昭和12)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,083 字 · 26 页
「旦那様アーッ」
なおお篠は、雄之進の足へ縋り付こうとした。
しかしもうその時には、――蔵の中に隠れ住むことにさえ責任を感じ、家の名誉と、愛する妻の幸福のために、今度こそ本当に、帰らぬ旅へ出て行こうと決心し、愛し愛し愛し抜いている妻の、俤を備えている代首、それだけを持った雄之進は、竹藪を分けて歩み出していた。
「妾もご一緒に! 雄之進殿オーッ」とお篠は後を追った。竹の根につまずいて転んだ。起き上って後を追った。またつまずいて仆れた。起き上って後を追った。いつか竹藪の外へ出た。茫々と蒼い月光ばかりが、眼路の限りに漲ってい、すぐ眼の前に、鸚鵡蔵が、白と黒との裾模様を着て立っていたが、雄之進の姿は見えなかった。絶望と悲哀とでお篠は地へ仆れた。そこで又愛し憐れみ尊敬している良人の名を、声限りに呼んだ。
「雄之進殿オーッ」
声は鸚鵡蔵へ届いた。
鸚鵡蔵は、「雄之進殿オーッ」と木精を返したか? いや、鸚鵡蔵は沈黙していた。
しかしどこからともなく、哀切な、優しい声が、
「お篠オーッ」と呼び返すのが聞こえた。
「あ、あ、あ!」とお篠は喘いだ。
「ご病気でお声さえ出なくなった旦那様が、妾の名を、妾の名を、お篠オーッと……」