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たそがれ
黄昏
宮本 百合子
「婦人画報」1922(大正11)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,500 字 · 29 页
奥へは洩れないように、気を緊めて声を低め、彼女は、
「馬鹿なこと! 誰がそんなことを出来るものか」
と、鋭く娘の言葉を撥(は)ね返した。
「私は筋の立たない金なんぞは、たとい半文も受けたくないと思うからこそ、他人から見れば、しずともいい苦労をして来たのではないか。始め、六蔵を裁判に立たせたのだって、決して、取られた、金を取り返そうためばかりではない、私の云い分と、あっちの遣り口と、公の眼で見ていただいて、どっちが正しいか、それをはっきりさせたいばかりでしたことじゃあないか。ああやって、毎日顔と顔とを見合わせている裏で、あんな企らみがあったかと思えば――おばあさんも憎いが、判るところを判らせない検事にも、私は愛素をつかしてしまった」
熱して話し、姉妹を見較べたおくめの瞼には、強い火照(ほて)りと一緒に涙が滲(にじ)み上って来た。
「それというのも、皆、お前達のお父さんが、ああだったからのことさ」
おくめの声には、何ともいえず、寂しい曇がかかって来た。
「お前方のお父(とっ)さんさえ、確かり家を守っていてくれさえしたら、あれもこれも、皆、無くってすんだことなのさ。