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きいろいばん

黄色い晩

小川 未明

「早稲田文學」1909(明治42)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,173 字 · 13 页

青空文庫

」

「あすこの家だ。」

「あの跡へ誰か入りましたかね。」

「周さんが入ったのだ。」

「ああ、吉沢の次男ですけえ、あの人が悪いんですかえ。ハア直に行きやす。」

「直に来ておくれ。」

「あなたと一しょに行きやす。」

と、直に按摩は仕度にかかった。私は暫らく、戸口に待っていると、こつこつと杖を捜す音がして、はや下駄を足につっかけているらしい。私は、他に誰もいないのかと思ったが、やはり暗がりで誰やら、ごとごとやっている音がする。私は婆さんがいるのだなと思った。

爺さんは按摩で針医を兼ねている。手に大きな箱を垂下げていた。盲目で竹の杖を突きながらとぼとぼと私の後方について来たが、途中から、私に手を引いてくれいといった。私は按摩の手を引きながら、低い、暗い、凸凹のあるうねうねと曲った町の雁木下を歩いて、やがて村へ差しかかったのである。西の山は真黒く浮き出ている。空には黒雲の間から、稀に星の光りが見えた。暗い物凄い晩である。先刻まで黄色かった空の名残は、殆どもはや見られなかったが、思いなしか、西の空は何処やら薄黄色ばんでいるようにも思われた。按摩は腰が曲って黒の羽織を着ていた。