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きいろいばん
黄色い晩
小川 未明
「早稲田文學」1909(明治42)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,173 字 · 13 页
私の下駄の力の入った踏み音のみが、四境の寂しさを破って響いた。脊中にはしっとり汗ばんで顔が熱ったけれど、彼の実家に行って用を済して更に町へ行って、針医を呼んで来なければならぬ重役を帯びていた――それにしても、私の母親は私の帰りの遅いのを心配して、今頃外に呼びに出ているかも知れないと思った時、益々速力を疾めて、周蔵の実家を目ざして駆け出した。
彼方に桑圃が一面につづいている。その奥の奥にちょっと藁屋が見えた時に、私はもうじきだと心のうちで独りで囁いた。
「一ッ二ッ。」とかけ声を出して、やっと周蔵の実家の戸口に駆け付けた。ちょうど夕飯時で、ランプの下には膳を据えて、彼の実兄と嫁とが嬉しそうに飯を食べていた。兄というのは四十近い、肥った顎髭の沢山にある脊の低い男で大工である。いつも笑顔をしているが、これで弟などには情合が薄いと聞いていた――彼の母親は見つからない。私は余りに駆けたので、急込んで、碌々声も出なかったが口早に、
「周さんが病気だから早く小母さんに来てくれいと周さんがいったよ。」と戸口から大声に告げると、彼の兄というのが、
「ハア、母親は今湯に行きやしたから、帰れば直ぐ行くといってくんなさい。