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きいろいばん

黄色い晩

小川 未明

「早稲田文學」1909(明治42)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,173 字 · 13 页

青空文庫

大きに御苦労でした。」と立上りもせずに――箸を持ったまま答えた。嫁というのも一寸此方を振向いて、

「大きに御苦労さんでした。」といったばかりである。

私はあまりのあっけなさに腹立しいというよりは気抜けがした。

「苦しいと、うなっているのだから早く来ておくれよ。」

といい残すとその家を出たが、急に周蔵が可哀そうになって彼の兄が憎くなった。それだから私は大声に軍歌をうたって、聞えよがしに怒鳴ってやった。

「ああ正成よ正成よ……。」と口から出るがままに大声で叫て、この村に響き渡れ! 彼の兄と嫁との耳に鳴り響いて鼓膜を破ってやれ! という意気込みで怒鳴り付けた。いつしか私は暗い杉林の下を通り抜けて、町へと急いだ。中途からは全く軍歌も止めて、私は又考え込んで途を歩いた。今頃私の母は私の帰りの遅いのを待って、心配しているであろう……しかし周蔵のために遅くなったのだから……言い訳が立つと考えた。

考えながら、途を歩いている間にも、周蔵の兄がランプの下で飯を食べていた姿が目に浮ぶ。ついで、暗い熱臭い室の中でうめいている周蔵の、黄色い眼付が目に浮び、うなり声が聞えるようだ……私は、また駆け足を始めた。