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くろいてちょう
黒い手帳
久生 十蘭
「新青年」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,026 字 · 38 页
食事がすむとすぐ、亭主のほうが、自分は最近すばらしいルウレットのシステムを発見したが、座興までにここで実験して見る。お望みなら公開してもいいといって素早く机の上にノートをひろげた。彼はたちまち嫌悪の色をあらわし、険しい眼つきでこちらへふりかえった。彼は何もかも察したらしかったが、それについては一言もいわなかった。
例の通り細君が玉廻しになり亭主が賭り方へまわった。この日ははじめからだいぶ調子がよくて二十分ほどのあいだにかなりの額を勝ちつづけた。彼は頬杖をついて黙然とながめていたが、やがてとつぜん「たわけたことを! そんなのがシステムであってたまるものか」と叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)した。子供面はむきになってノートをふりまわしながら「現にこのの通り勝っているじゃないか」と叫んだ。彼は「勝っていることも事実だが、いずれ負けてしまうのも事実だ。お前の様な馬鹿野郎を納得させるには理窟では駄目なのだナ。いま実例を示してやる。おれが読むからやってみろ」といってモンテ・カルロ新聞をとりあげた。珍妙なことがはじまった。黒へ賭れば赤が出る。奇数へ賭れば偶数が出る。