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くろてぐみ
黒手組
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,978 字 · 36 页
わしの立っていた地面から草の生えている所までは、一番短いので二間は十分あったのですからね」
「そこには何か動物の足跡の様なものはありませんでしたか」
明智が意味あり気に訊ねました。伯父はけげんな顔をして、
「え、動物ですって」
と聞返します。
「例えば、馬の足跡とか犬の足跡とかいう様なものです」
私はこの問答を聞いて、ずっと以前にストランド・マガジンか何かで読んだ一つの犯罪物語を想浮べました。それはある男が、馬の蹄鉄を足につけて犯罪の場所へ往復した為に、うまく嫌疑を免れたという話でした。明智もきっとそんな事を考えていたのに相違ありません。
「さあ、そこまではわしも気がつかなかったが、牧田お前覚えていないかね」
「はあ、どうもよく覚えませんですが、多分そんなものはなかった様でございます」
明智はここで又黙想を始めました。
私は最初伯父から話を聞いた時にも思ったことですが、今度の事件の中心は、この賊の足跡のないという点にあるのです。それは実に一種不気味な事実でした。
長い間沈黙が続きました。
「併し何は兎もあれ」やがて又伯父が話し始めます。「これで事件は落着したのだとわしは大いに安心して帰宅しました。