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こくてん
黒点
豊島 与志雄
――或る青年の「回想記」の一節――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页
それは変に悪魔的な手だった。今にもぬーっと伸び出して天まで届きそうに思えた。
「昔は、ああいう星が動いていて、東から西へぐるぐる廻ってるものだと思われていたんだよ。ところがだんだん調べてみると、動いてるのはこのわたし達の地球で、星の方はじっとしてることが分ってきた。何万年も何億年も、あの限りなく広い空の真中に、いつまでもじっと一つ処に浮いているんだよ。或は動いてるのかも知れないが、まだそこまではよく分らないから、今のところ動かないものとしてあるんだ。」
星を指してる寺田さんの手と、永久に大空の一つところに浮いてるという星とに、私はすっかり気圧されてしまって、むりに反抗してみたくなった。
「だって……だって……星は動くよ。」と私は呟いた。「僕が歩き出すと、星がついて来るんだ。」
そして私はとっとっと歩いてやった。一寸間があった。と突然あはははと高く笑う声が聞えた。そしてすぐに、固い感じのする手で肩をしっかと捉えられた。私は冷りとした。
「あははは。」と寺田さんはまだ笑っていた。「お前は面白いことを云うね……。なるほど、星は動く……わたし達についてくる……。