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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

前から分っていた通り、父は五十歳限り砲兵工廠を解職になった。

十二月末の、もう正月にも五日という、風の強い寒い日だった。父はいつになく早く帰ってきた。

「電気はまだか、薄暗くなってるに。」

初めは怒鳴りつけるような、後は泣くような、声の調子だった。が、まだどこか昼の光の残ってる中につけられた、赤っぽい電燈の光で見る父の顔に、私はなお一層びっくりした。父は弁当箱を抛り出して、火鉢の前にぼんやり坐っていた。その顔付がまるで腑脱けのようで、眼だけが気味悪く光っていた。

これはずっと後の話だが、私の友人に、初犯二年間の刑務に服してきた男がいる。私も少し掛り合いの間柄だったので出迎いにいってやった。その時刑務所の門の前で七八人の知人に取巻かれた彼の顔が、あの時火鉢の前に坐ってた父の顔と、丁度同じような印象を私に与えた。

一口に云えば、もうすっかり精根つきながら、きょとんとした眼の底から、興奮してぴくぴく躍ってる魂が覗き出してる、というような顔付だった。額や頬骨のあたりの皮膚が硬ばってかさかさになっていた。

台所から母がやって来て、二人で何かごちゃごちゃ話し出した。