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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

寒い北風を真正面に受けながら、戸崎町の自分の家まで歩いて帰った。

母から何やかや問いかけられても、碌に返辞もしないで、布団を被って寝てしまった。

父は酒に酔っ払って炬燵で居眠りをしていた。お三代がその傍で千代紙を折っていた。

私はひどく疲れていた。背骨まで、ぐにゃぐにゃになってるような気がした。熱に浮かされたような心地で、眠っていった。

ところが、それからが大変だった。

私は夜中にいきなり母から引きずり起された。

母は歯をくいしばってぎりぎりやっていた。父は薄暗い眼をしていた。お新が私を睨みつけていた。

「お前は今日、何をしたんだい。」母は逆せ上って舌が廻りかねてるようだった。「餓鬼のくせに、わたしに嘘を云って、カフェーなんかに遊びに行って……何だと思ってそんなことをしたんだい。」

「そして一円払っていったんだよ。」と姉がつけ加えた。

「そのお銭を、どこから持っていったんだい。……さあ云ってごらん。云えないか。云えないだろう。この野郎……。」

返辞をする間もなく、私はそこに叩きつけられてしまった。力任せに二つ三つ殴られた。

殴ってしまうと、母は少し気が静まったようだったようだった。