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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

「さあ、どうしてあんなとこへ行ったか、云ってごらん。お銭もどこから持っていったか、白状しておしまい。すっかり云ってしまわないと、承知しないよ。」

だが、私はしつっこく黙っていた。

母はくどくどと責め立て初めた。愚痴っぽくなったり、怒り出したりした。何のために学校へ行ってるのか、とも云った。先生に云いつけてやる、とも云った。カフェーなんか子供の行くところじゃない、とも云った。誰にそそのかされて行ったのか、とも云った。金はどこから持ち出したのか、盗んだのか、とも云った。嘘をついて瞞かしたんだから、初めから何か目論見があったに違いない、とも云った。隠し立てをして云わないようなら、外に逐い出してしまう、交番につき出してしまう、とも云った。皆がどんなに苦労してるか分ってるか、とも云った。そして、父が長年造兵に出て苦労したものも、兄がよそに奉公してるのも、上の姉が辛い勤めをしてるのも、次の姉がカフェーなんかに出てるのも、母が眼の悪いのもいとわず竹楊子の内職をしてるのも、みんな私のためだそうだった。――が私は茲に母の揚足をとるつもりではない。後で分ったことだが、母が日歩の金なんかを内々廻すようになったのも、私が少し学校が出来るものだから、私だけには立派に学問をさせたいという腹もあったらしい。