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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

次第に素気なくなっていった。

その代り彼女は、父の恐ろしい眼付の前に大胆になっていった。

私は或る日曜日の朝、彼女と父との様子を裏口に見た。父は古釘を叩き止めて、金槌の工合をでも見るような風に、その頭と柄とを両手でぎりぎりやっていた。が眼は、前方へ下目がちに錐のように鋭く注がれていた。そこに、一二尺のところに、お清がしゃがんでいた。そして、冷たい感じのする頬辺をして、釘箱の中をかき廻しながら、この釘は本当に真直だとか、これはまだ少し曲ってるとか云っていた。父も口の中で何とか答えをしていた。その二人の言葉は、心がまるで別なところにあるような調子に見えた。そのうちにお新が出ていった。お清は立上って、高慢ちきにつんと空を仰いだ。それが彼女の混血児顔にふさわしかった。さも何かを――父を――軽蔑しきってるような様子だった。

私は流し場で筆を洗う風をしながら、障子戸の破け穴から隙見していたが、父が一寸振向いたのでぎくりとした。父のその眼付では、何でも素通しに見透されるような気がした。

そういう時の父と、平素のぼんやりしてる時の父とが、別々のものとなって頭に映るのが、殊に私は不安だった。