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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

それらのものを一々、父の執拗な眼付が吸い取っていった。

お清は時々かすかに身震いをして唇を噛んだ。今にも彼女が喚き出しはすまいかと思って、私はびくびくしていた。

その時、話はだんだん内証事に落ちていって、母はお清がつけ廻されてる男のことを持ち出した。その男を刑事と間違えて酒のことで心配したなどと云った。

「どうしてあんなに執念深いんでしょう、嫌になっちまうわ。」とお清はぼんやり云っていた。「だけど、あの男ばかりじゃないわ。あたし毎晩泥棒につけられてるような気がするのよ。夜中に家のまわりによく足音がして、おちおち眠られもしないことがあってよ。」

「それもやはりあの人じゃないかしら。」とお新が云った。

「そんなことないでしょう。……あたし何だか気味が悪いから、近いうちに引越そうかと思ってるの。」

それから話は家賃や室代のことになった。

その、お清が殆んどでたらめに云ったことが、強く父の注意を惹いたらしかった。父はぎくりと頭をもたげて、正面にお清を見つめ初めた。皆がその場に居合してることを忘れたかのようだった。お清は少し身を引いてもじもじしだした。混血児風の顔が石の彫刻のように見えた。