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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

」

太陽という言葉を口にするのが私は得意だった。

「ほんとうに見えるの。」

「見えやしないや。ぎらぎらして……。」

姉は笑った。そして、青か黒かの薄い色をレンズに塗れば眩しくない、と教えてくれた。

「日の照っている海を、虫眼鏡で見ると、そりゃあ綺麗だわよ。」

なよなよした身体付をして、舌ったるい口を利いて、家に来ても一日火鉢にばかりかじりついてるその姉を、私は何だか好きだった。母のような気持さえした。

その姉に教えられたことが私は嬉しかった。そして、どうにか太陽の黒点らしいものを見ることが出来た。

然し、それから間もなく、私の悲惨な放浪生活が初ったのである。