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つづみくらべ

鼓くらべ

山本 周五郎

「少女の友」1941(昭和16)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,577 字 · 18 页

青空文庫

四

……お嬢さま、あなたはすぐれた鼓の打ち手だと存じます、お城の鼓くらべなどにお上りなさらずとも、そのお手並は立派なものでございます。おやめなさいまし、人と優劣を争うことなどはおやめなさいまし、音楽はもっと美しいものでございます、人の世で最も美しいものでございます」

お留伊を迎えに来た少女が、薬湯を嚥む刻だと云って入って来た。……老人は苦しげに身を起して薬湯を啜ると、話し疲れたものか暫く凝乎と眼をつむっていた。

「では、聴かせて頂きましょうか」

老人はながい沈黙のあとで云った。「……もう是が聴き納めになるかも知れません、失礼ですが寝たままで御免を蒙ります」

四

金沢城二の曲輪に設けられた新しい楽殿では、城主前田侯をはじめ重臣たち臨席のもとに、嘉例の演能を終って、すでに、鼓くらべが数番も進んでいた。

これには色々な身分の者が加わるので、城主の席には御簾が下されている。お留伊は控えの座から、その御簾の奥をすかし見しながら、幾度も総身の顫えるような感動を覚えた。……然しそれは気臆れがしたのではない。楽殿の舞台でつぎつぎに披露される鼓くらべは、まだどの一つも彼女を惧れさせるほどのものがなかった。