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つづみくらべ
鼓くらべ
山本 周五郎
「少女の友」1941(昭和16)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,577 字 · 18 页
三
……はじめのうちはたまたま射しかける陽のぬくみにも溶けた雪が、家の蔭に残り、垣の根に残りして次第にその翼をひろげ、やがてかたく凍てて今年の根雪となった。
おおつごもりの明日に迫った日である。お留伊が鼓を打っていると、庭の小柴垣のところへ、雪蓑に笠をつけた人影が近寄って来た。
――まあ、やっぱりまだいたのね。
お留伊はあの老人だと思って、鼓をやめて縁先まで立って行った。……けれどそれはあの老人ではなく、まだ十二三の見慣れぬ少女であった。
三
「あの? お願があってまいりました」
少女はお留伊を見ると、笠をとりながら小腰を跼めた。
「おまえ誰なの」
「わたくし宿はずれの松葉屋と申す宿屋の娘でございますが、うちに泊っておいでの老人のお客さまから、お嬢さまに来て頂けますようにって、頼まれてまいりました」
「あたしに来て呉れって」
「はい、病気がたいへんお悪いのです。それでもういちど、お嬢さまのお鼓を聴かせて頂いてから死にたいと、そう申しているのです」
あの老絵師だということは直ぐに分った。
普通の場合なら、いくら相手があの老人であっても、そんなところへ出掛けて行くお留伊ではなかった。