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ねずみざか
鼠坂
「中央公論」1912(明治45)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,781 字 · 16 页
これからまた遼陽へ帰って、会社のお役人を遣らなくてはならない。実はそんな事はよして南清の方へ行きたいのだが、人生意の如くならずだ。」
「君は無邪気だよ。あの驢馬を貰った時の、君の喜びようと云ったらなかったね。僕はそう思ったよ。君だの、あの騾馬を手に入れて喜んだ司令官の爺いさんなんぞは、仙人だと思ったよ。己は騎兵科で、こんな服を着て徒歩をするのはつらかったが、これがあれば、もうてくてく歩きはしなくっても好いと云って、ころころしていた司令官も、随分好人物だったね。あれから君は驢馬をどうしたね。」記者が通訳あがりに問うたのである。
「なに。十里河まで行くと、兵站部で取り上げられてしまった。」
記者は主人の顔をちょいと見て、狡猾げに笑った。
主人は記者の顔を、同じような目附で見返した。「そこへ行くと、君は罪が深い。酒と肉では満足しないのだから。」
「うん。大した違いはないが、僕は今一つの肉を要求する。金も悪くはないが、その今一つの肉を得る手段に過ぎない。金その物に興味を持っている君とは違う。しかし友達には、君のような人があるのが好い。」
主人は持前の苦笑をした。