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あそび

あそび

森 鴎外

「三田文學」1910(明治43)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,358 字 · 21 页

青空文庫

朝日の灰の翻れるのを、机の向うへ吹き落しながら読む。顔はやはり晴々としている。

唐紙のあっちからは、はたきと箒との音が劇しく聞える。女中が急いで寝間を掃除しているのである。はたきの音が殊に劇しいので、木村は度々小言を言ったが、一日位直っても、また元の通りになる。はたきに附けてある紙ではたかずに、柄の先きではたくのである。木村はこれを「本能的掃除」と名づけた。鳩の卵を抱いているとき、卵と白墨の角をしたのと取り換えて置くと、やはりその白墨を抱いている。目的は余所になって、手段だけが実行せられる。塵を取るためとは思わずに、はたくためにはたくのである。

尤もこの女中は、本能的掃除をしても、「舌の戦ぎ」をしても、活溌で間に合うので、木村は満足している。舌の戦ぎというのは、ロオマンチック時代のある小説家の云った事で、女中が主人の出た迹で、近所をしゃべり廻るのを謂うのである。

木村は何か読んでしまって、一寸顔を蹙めた。大抵いつも新聞を置くときは、極 apathique な表情をするか、そうでなければ、顔を蹙めるのである。書いてあるのは毒にも薬にもならないような事であるか、そうでなければ、木村が不公平だと感ずるような事であるからである。