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あそび
あそび
「三田文學」1910(明治43)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,358 字 · 21 页
木村は官吏である。
ある日いつもの通りに、午前六時に目を醒ました。夏の初めである。もう外は明るくなっているが、女中が遠慮してこの間だけは雨戸を開けずに置く。蚊の外に小さく燃えているランプの光で、独寝の閨が寂しく見えている。
器械的に手が枕の側を探る。それは時計を捜すのである。逓信省で車掌に買って渡す時計だとかで、頗る大きいニッケル時計なのである。針はいつもの通り、きちんと六時を指している。
「おい。戸を開けんか。」
女中が手を拭き拭き出て来て、雨戸を繰り開ける。外は相変らず、灰色の空から細かい雨が降っている。暑くはないが、じめじめとした空気が顔に当る。
女中は湯帷子に襷を肉に食い入るように掛けて、戸を一枚一枚戸袋に繰り入れている。額には汗がにじんで、それに乱れた髪の毛がこびり附いている。
「ははあ、きょうも運動すると暑くなる日だな」と思う。木村の借家から電車の停留場まで七八町ある。それを歩いて行くと、涼しいと思って門口を出ても、行き着くまでに汗になる。その事を思ったのである。
縁側に出て顔を洗いながら、今朝急いで課長に出すはずの書類のあることを思い出す。