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あとがき(『モスクワいんしょうき』)

あとがき(『モスクワ印象記』)

宮本 百合子

「モスクワ印象記」東京民報出版社、1949(昭和24)年5月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,361 字 · 3 页

青空文庫

わたしがソヴェト同盟に暮したのは、もう二十年も前のことになる。一九二七年の暮から三〇年十一月までのことであったが、三一年から三二年までわたしはずいぶん沢山のソヴェト社会の日常生活や文化・文学についての報告を書いた。そしてそれらは、書いているわたし自身がそこで暮した新しい社会生活の姿にいきいきとして新たな感動をよみがえらしたように、沢山の人によまれて人民生活のゆく手の明るさを感じさせた。

一九三二年の春からのち、日本のすべての人の生活がはげしいファシズムの笞で侵略戦争に追いこまれはじめた。侵略戦争の遂行のためにわたしたち人民の口はふさがれ、眼にカーキ色の幕がはられた。バイカル湖まではこちらで貰うというようなことがしらふで話されていた時期に、ソヴェト同盟は日本の軍国主義者にとっての侵略目標であった。そして世界平和と人民生活の安定のための社会主義建設に努力するソヴェト同盟の存在は「赤」の本場として憎悪の的とされた。

そんなに書きためられていたソヴェト同盟についてのいきいきした話が一九三二年からのちのどの本にも集録されないできた理由はここにある。わたしたちの人民的な自由とともにソヴェトの物語も檻に入れられていた。