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あのころ

あのころ

上村 松園

――幼ものがたり――

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,743 字 · 10 页

青空文庫

いつでも店先で、ぼんやりと外を眺めていましたが、とき折り私が借りた本を返しにゆくと、

「えらいすまんな」

といって、色刷りの絵をくれたりしました。店にはずいぶんたくさんの本があり、私の好きな絵本もありました。

御一新前に、その老夫婦が勤皇の志士をかくまったそうですが、その志士がのちに出世して東京で偉い人になったので、

「お礼返しに息子さんを学校へ出してやろう」

と言われたので、老夫婦は息子をつれて東京へ行ってしまいましたが、その時たくさんの本を屑屋へ払い下げて行ったそうですが、あとでそのことをきいて、

「あれをたくさん買って置けばよかった」

と残念におもいました。

母が用事で外出をすると、留守の私は淋しいので、母の鏡台から臙脂をとり出して、半紙に、それら北斎の※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)絵をうつしていましたが、母は帰って来られると必ず、二、三枚の絵を土産に下さいましたことも、今は遠い思い出となってしまいました。

小学校時代

仏光寺の開智校へ入学したのは、七つの年でした。

絵が好きなものですから、ほかの時間でも石盤に石筆で絵を描いたり、庵筆(鉛筆のことを当時はそうよびました)でノートに絵をかいたりして楽しんでいました。