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あのかお

あの顔

大倉 燁子

「ロック 三巻六号」1948(昭和23)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,009 字 · 22 页

青空文庫

あの憎い妾に似ていると思うと、可愛さよりも憎らしくなるものですのねえ。愛くるしい眼をじいッと見詰めていると、いつかそれが赤ン坊でなくほんものの妾の顔に見えたりして、この眼で夫を惑わせたか、蕾のような赤い唇を見ると、夫の心を吸い寄せた憎い唇――と、思わず口尻を捻り上げて泣かせたりしました」と云って、彼女は虚のような声で笑った。

博士はいかにも興味深くその話に聞き入っていたが、

「愛子さんをいじめたりしては、なお御主人との間が拙くなるじゃありませんか」

「でもあんまりよく似ているんで、憎らしくなってしまいますわ。そして、恰度昨日の事なんですが」と云いかけて、身震るいしながら「夫と愛子の事で喧嘩したあとで、私はまだ興奮からさめきらず、むしゃくしゃ腹を立てているところへ弘さんがやって来たんです。また無心だな、この男も私に同情するような顔をして痛めつけに来るんだ、と癪にさわり――」

「無理もないな」

「で、私は突っかかるような調子で、またお金を貰いに来たの? と云うと、弘さんは恥しそうに顔をぱっと赤くしました。今日は駄目よ。そういつもいつも柳の下に泥鰌はいないわよ、ちっと河岸を変えたらどう? ときめつけてやりました」