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あるなつのひのこと
ある夏の日のこと
小川 未明
「女子青年 24巻8号」1941(昭和16)年8月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,545 字 · 3 页
午後になって勇ちゃんは、学校から帰ると、庭に出て、一人で遊んでいました。
「勇ちゃん、はちの巣があってよ。」
彼女は、弟の顔を見ました。
「ああ、知っている。」
「え、知っているの。」
弟が、どうして、それを落とさなかったろうと疑われました。
「姉さん、つつじの木だろう。お母さんばちがひとりで巣を造っているのだよ。」
「ええ、そうなの。」
「このあいだから見ると、だいぶ大きくなった。あの穴の中に子供がいるんだね。暑いときは、水盤の水を含んでいって、巣の上を冷やしているよ。」
「まあ。」
そんなくわしいことまで、いつ弟は観察していたのだろうとびっくりしました。
しかし、姉さんは、弟が、どんなにそのはちをかわいがっているかを、まだ知らなかったのです。
「君、はちの子を持っていくと、ほんとうによく釣れるよ。」
子供たちは、日課のように、みんなで川へ釣りに出かけました。彼らは、血眼になって、はちの巣をさがしていたのです。勇ちゃんは、その話を聞くたびに、庭のはちの巣を目に浮かべました。このごろ母ばちの片方の羽がすこし破れているのを考えると、胸が痛くなるのを感じました。ほかの子供は、どこからか、はちの子をさがして持っていくことがあったが、勇ちゃんだけは、いつもうどん粉の餌を造って、釣りに出かけたのでした。