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あるおんせんのゆらい
ある温泉の由来
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,655 字 · 30 页
「余り犠牲でもなかろうぜ。あゝいう綺麗な人と一緒になったんだから」
「考えて見ると僕も仕合せだ。此方から惚れたばかりじゃない。竹子も学校へ通っている頃から僕を憎からず思っていたと言っている」
「これはいけない。いつの間にか聞かされている」
「銀行へ行っていると意味を為さない。二十円の為めに一日顔が見られないんだから」
「やめるのかい? 本当に」
「うむ。何うせ研究するなら、本式にやりたいと思う」
僕は役場の手当が十五円だった。早川君とは違うけれど、矢張り勤めなくても食える。楽なことは兎角真似がしたい。早川君が銀行から引くと間もなく、僕も役場をやめてしまった。郷土歴史の研究に没頭したいというのが親父への取り繕いだった。今から考えて見ると、動機が疑わしいが、何かに引きずられるような気がして、そうしなければ落ちつかなかったのだ。僕は運命というものがあると考える。万事が安東校長の所謂好くなる道筋だったのかも知れない。僕達は郷土歴史の研究から思いがけない方面へ転向してしまったのである。
或晩、早川君が遊びに来て話し込んだ。もう早川君でない。中島君だ。結婚当座は足が遠くなったが、もう半年ばかりたっていた。