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あるおんせんのゆらい
ある温泉の由来
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,655 字 · 30 页
今度は家が近いし、両方とも仕事がないから、毎日行ったり来たりだった。
「君、荒神風呂は昔の温泉じゃなかろうか?」
と中島君が言い出した。僕達は千年前の郷土を想像して、極めて自由な説を立てるのを楽しみにしていたのである。
「君も考えたのか?」
と僕は胸がドキンとした。
「うむ。実は僕は親父から暗示を受けたんだ。いつか荒神風呂って名が不思議だと言ったろう?」
「覚えている。亀の子で警察へ呼ばれた頃だった」
「親父が真の思いつきのように、あすこは昔温泉の涌いていたところかも知れないと言ったんだ。それが頭に残っていたのだろう。僕は君の屋敷から温泉が涌き出した夢を見た」
「有難いな。ハッハヽヽ」
「君と二人で抱き合って喜んだ。万歳々々と呼んだ。あなた/\と竹子に起されて気がついた」
「詰まらない」
「ハッハヽヽヽ」
「性が悪いよ。惚気を言う為めに、見もしない夢を話す」
「いや、本当に見たんだ。僕は有望だと思っている」
「何が?」
「温泉さ」
と中島君は声を潜めた。
僕達はその晩から転向した。郷土歴史の研究から富源の開拓へ。しかし一年有半の勉強が大分役に立った。僕達の頭の中には七百年前の郷土の地図があった。