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あるおんせんのゆらい
ある温泉の由来
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,655 字 · 30 页
引佐は未だ野原だった。○○町は街道筋の村落として既に存在していた。源氏の軍が長く逗留していたという記録がある。町から一番近い山は金峯山で、昔は単に峯と呼んだ。
「荒神風呂に亀集い、鶴も巣籠る峯の松。これは、君、遊覧気分を現した歌だ」
「峯の松が枯れて、鶴が来なくなったように、温泉も涌かなくなったんだろう」
「もう一つはこの辺に塚の多いことだ。塚原という村さえある。源氏も平家も戦争で怪我をすると、○○町へ泊って、荒神風呂で湯治をしたんだ。直った奴は帰って行くが、死んだ奴が葬られて塚になる」
「自然的に考えても温泉が涌きそうなところだ。山沿い川沿いだぜ」
「鹿や猿が見つけた温泉もあるが、こゝのは亀が見つけている。こゝで冬を越すのは底に湯が通っているからだ」
「亀の子温泉と名をつけるか?」
「いや、荒神風呂の方が宜い。恐らく源氏のものがつけたんだろう。何となく勇ましい名前だ」
「当れば大きいや、これは。忽ち成金だ」
「是非やって見よう」
「待ってくれ給え。僕は支度がある」
中島君は荒神風呂の対岸を買い占めた。荒神風呂から涌くようなら、湯の脈が対岸へ走っているに相違ない。此方側も山沿いの田を二人で買い足した。