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いしがおごる

いしが奢る

山本 周五郎

「サンデー毎日臨時増刊仲秋特別号」毎日新聞出版、1952(昭和27)年10月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,304 字 · 45 页

青空文庫

――それは八幡屋以下三人の御用商人の実態調査であって、その取引状態や、年間の利潤や、資産について、(これには能登屋ら四人の商人たちの助力があったが)詳細な事実があげられていた。むろん、保馬への進物や、接待の費用なども、そのつど入念に計算されているので、今その明細書を見ながら、保馬は頭を振って苦笑した。

「この分は返さなければならないんだからな、江戸でなくって幸いだよ、江戸だったら破産してしまうぜ」

「此処でも財布が空になるそうじゃありませんか」堀勘兵衛がそう云ってから、ふと眼をあげて、「あのおいしという娘ですね、あれは注意なさらないといけませんよ」

「――なにかあるのか」

「外島又兵衛です」と勘兵衛が云った、「あれは青木重右衛門の養女ですが、もとは加賀藩の浪人の遺児だそうで、外島と結婚する約束ができている……どうかなさいましたか」

「いや、なんでもない、続けてくれ」

「縁組の裏には八幡屋、島屋、青木の三人連合の契約があるんですね、かれらは外島を勘定奉行か、できれば筆頭年寄に据えて、自分たちの位置を確保しようとしているんです」

「外島には無理だな」

「どうせ操り人形でしょう」