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いしがおごる
いしが奢る
山本 周五郎
「サンデー毎日臨時増刊仲秋特別号」毎日新聞出版、1952(昭和27)年10月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,304 字 · 45 页
そのうえ、いしと外島との関係が、いしの重荷であり、いしを不幸にするだろうと思うと、保馬の愛着はいっそう深くなるのであった。
――このままでは危ないぞ、このままでは。彼はまじめにそう思い始めた。今のうちにどうかしないとばかげたことになりかねないぞ。
仲田と堀とは仕事を進めていた。九月になると江戸から、城代家老に宛てて墨付の密書が届き、それによって、諸役所の帳簿が(極秘のうちに)検閲された。そうして、それまでに調べあげたものと突合せ、両者の記録の差違や、糊塗された部分を挙げてゆくと、御用商人と重臣たちとのつながりが、意外なほど深く大きいのに驚かされた。
「これはひどいことになっているものですね」
「どこの藩でも同じらしいぞ」保馬は苦笑して云った、「幕府そのものが音をあげているんだから、もう侍の政治ではやってゆけなくなってるんだろうな」
「しかし、これを表面に出さずに済みますか」
「むずかしいところだね」
保馬は太息をついた。これまで苦心してやってきたのは、財政の転換を穏やかにやるためであった。不正な事実があっても、それを摘発するよりは武器にして、できるだけ円満に事をおさめる。