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いしがおごる
いしが奢る
山本 周五郎
「サンデー毎日臨時増刊仲秋特別号」毎日新聞出版、1952(昭和27)年10月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,304 字 · 45 页
おそらく監物からもれたのであろう、みんな縁談のことを知っているようで、口には出さないがそれとなく祝いの言葉を述べた。
「いや遊びに来たんですよ」保馬はどこでもそう云うのであった、「こんなことを云うと怒られるでしょうね、江戸ではちょっと羽根を伸ばしてもすぐ眼につくもんですから、……どうか面白いところがあったら案内して下さい」
しかし人々は信じなかった。人々の頭には「勘定吟味役」という言葉がひっかかっていた。
――縁談というのは少しおかしい。
重職の人たちはそう話しあった。
――なるべく当らず触らずがいい。そしてじっさい、かれらは不即不離の態度をとった。江戸の家老の子であり、美貌の俊才であり、また城代家老の女婿になるかもしれない。そのうえ秘密の使命を帯びているという評もあるのだから、保馬の立場はまったく自由であり、殆んど不拘束といってよかった。
保馬はそれを慥かめた。そうして、ひとわたり招待が済むと遊びに出はじめた。
初めて天の橋立へいったときのことであるが、切戸文珠の内海がわにある「掬水亭」という料亭で休んだ。もう梅雨はきれいにあがって、風のない暑い日が続いていた。