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いわゆるしぜんのびとしぜんのあい

いわゆる自然の美と自然の愛

丘 浅次郎

「時代思潮」1905(明治38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,029 字 · 16 页

青空文庫

疑問である。世間では家を愛し国を愛し人類を愛し宇宙を愛する心を皆同一の心の異なった階段とみなし、愛の範囲の広いほど尊いものであるかのごとくにいいはやしているが、われらの考えは大いにこれとは違う。

家を愛し国を愛することには生物学上正当の理由が十分にあるが、これに反して宇宙万物を愛するというに至っては全く正当な範囲以外へ逼出した本能の錯誤的作用であると思う。そもそも人間はいわゆる社会的動物であって社会を造らずには一日も満足に生存はできぬが、およそ団体を造って生活する動物では多くの団体が相対して生存し各団体が生存競争の単位となるゆえ、一団体内の各個体に利他の心がなかったならば生存は全く覚束ない。かくのごとく利他心は社会的動物の生存における必要条件であるゆえ、人間に限らずおよそ社会的の生活を営んでいる動物ならばかならず多少発達しておらぬことはない、蜂や蟻の社会的生活状態を観察すればこのことはきわめて明らかである。されば利他心なるものは生存の必要上より社会的動物に生じた本能とみなすべきもので、人類における利他心ももとよりこの理に漏れるわけはない。ところが本能なるものはすべて多少盲目的でしばしば誤るものであることは、いささかでも動物の習性を調べた者の十分に知っているところである。