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おじさんのはなし

おじさんの話

小山 清

「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页

青空文庫

おじさんは一寸さっぱりしていくからと云って、床屋に寄った。私も一緒に這入って、おじさんがひげを剃ってもらっている間を、所在なく待っていた。私はなんだか自分が、おじさんの附馬ででもあるかのような気がした。その店は小汚なく、古風な感じで、肩がこらなかった。私は壁に貼ってあるポスターの中の、豊満な体をした支那美人に、うっかり見とれたりした。

水天宮の都電の停留場のところで電車を待っている間に、おじさんは不意に、

「一寸そこまで行ってくるから。」

と云いすてて、私になにも云いかける隙を与えずに、足早にすぐ目の前にある水天宮の境内へ這入っていった。流石におじさんの後を追うわけにもいかなかった。それにおじさんがこのまま私を撒くとは思えなかった。私はそこに佇んで、おじさんが戻ってくるのを待った。やがて電車を四、五台見送った時分に、おじさんは戻ってきた。その顔を見て、私は合点がいった。――おじさん、一寸覗いてきたな。おじさんのおなかのなかの勝負の虫は、もはや活溌に動きはじめて、おじさんは先刻から痺をきらしていたのに違いなかった。

店に帰ってから、それでもおじさんは二、三日は神妙にしていた。