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おじさんのはなし

おじさんの話

小山 清

「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页

青空文庫

「よう、きょうはばかに帰りが早いじゃないか。」

と云った。私はすぐ会社へ戻らなければならないのだと云い、私達は一寸の間よそごとを話したが、おじさんが階下へ下りた隙に、押入を覗いてみたら、布団の上に焚きたての御飯の這入った小鍋がちょこんと載っていた。私は癪にさわって、食べてしまってやろうかと思ったが、流石にそれも出来かねた。

空襲の夜、おじさんと私は三河島の省線のガード下まで逃げて、そこで大勢の避難民と一緒に夜を明した。夜が明けてから、三の輪にある同業の店を尋ねた。やがておじさんはその店に身を置くことになり、私は郊外の三鷹町にある友人が疎開した後の家の留守番に這入り込んだ。私は三鷹から三河島の工場まで通ったが、それから空襲が頻繁になって、几帳面には通って来られなくなった。おじさんは三の輪の店で一区域受持って配達するようになった。神経痛が出たときも、足を引きずって配達していた。私はときどき、おじさんの許に泊り込んだ。あるときおじさんの相伴をして、ビールの券にありつくために、国民酒場の前の行列の中に這入った。おじさんはビールを呑むわけではなく、そうして行列してビールの引換券を手に入れては売って金にしていたのである。