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おじさんのはなし
おじさんの話
小山 清
「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页
氷砂糖を買ってきてくれないか。おれはそれをしゃぶっていようと思うんだ。」
「いまが大事なときじゃないか。辛抱しなよ。」
おじさんが氷砂糖を欲しがるのは、口ざみしいためばかりではなく、寝台に寝てばかりいて一日が長くて退屈なので、それでもしゃぶって気を紛らわしたいらしいのだった。私は看護婦に訊いてみたが、差支えないと云うので、病院の売店から氷砂糖を買ってきた。おじさんは早速それを頬ばった。病室の附漆のお母さんか誰かが口に入れているのを見て、おじさんは子供のように欲しくなったのかも知れなかった。
おじさんの病状は、その後まったく順調で、日ましによくなっていった。それでもおじさんは一月あまり入院していた。食堂のおかみさんがいちど見舞いに来てくれたそうである。その後しばらく私はおじさんに御無沙汰していたが、殆ど一年ぶり位に尋ねたら、おじさんは元気なくしょんぼりしていた。
「きみに愛想を尽かされちゃったし。」
とおじさんは気の弱いことを云った。それは私の方こそ、おじさんに云わなければならない言葉であった。人が人に愛想を尽かすなどということは、果して出来ることだろうか。