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おじさんのはなし

おじさんの話

小山 清

「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页

青空文庫

「どうぞ、こちらでお待ちになって下さい。」

とくりかえした。小家の内部は六坪ほどで、座敷と土間とから成っていた。座敷の畳数は四畳半で、格子のある窓際に小机が据えてあり、小机の下には座布団があった。壁には見覚えのあるおじさんの襯衣やズボンがかかっていた。察するところ、おじさんはここで寝起きしているのだろう。娘さんは座布団を取って私にすすめ、

「どうぞ、おらくになさって下さい。」と云うと、立ち去った。

私は上框に腰かけたが、さて手持無沙汰であった。こんなとき、煙草のみならば懐中から煙草を取り出して一服するわけなのだろう。土間の片隅には鍬やシャベルや炭俵や七輪や手桶などが置いてあった。羽目板にはよきほどのところに棚が打ちつけてあって、棚の上には炊事道具その他が置いてあった。この棚は最近そこに設けられた形跡が見える。けだしおじさんの細工になるものだろう。

私は座敷に上り机の前に坐ってみた。机の上には硯箱が置いてある。硯箱を持ち上げてみると、千字文と半紙の束があった。半紙には手習いの跡がある。手習いなんかはじめたところを見ると、よくは様子はわからないが、おじさんはだいぶ閑日月を楽しんでいるらしい。