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おばなさわ

おばな沢

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页

青空文庫

妹に向うと特にそうであるが、愛情や労りをやさしい言葉で表わせない、わざと怒ったりふきげんになるのが、いつもの兄の癖であった。

「仮の盃にしても、あんな祝言などをするのがまちがっていたんだ、二、三年はむりだと医者がはっきり云っていたじゃないか」

「――だって、お兄さまだって強いて反対はなさらなかったわ」

「おれが反対したところで、悪くとられるにきまっているさ。おれがなにか云えば、お母さまもおまえも、すぐ相良をひきあいに出すんだ」

「――でも本当にそうなのですもの、お兄さまは今だって節子を相良さまへお遣りになりたいのでしょ」

「そんなことを云ってるんじゃない、もっと病気に対して本気になれというんだ、これは胃が悪いとか頭痛がするなぞという簡単なものじゃないんだぞ」

「――おおげさに仰しゃるのね」

節子はむきになった兄をなだめるように、手を伸ばして袴に附いている糸屑を取ってやりながら云った。

「――そんなに心配することはないですってよ、世間では催促病気というくらいで、我儘にじっとしていればすぐなおると云ってましたわ」

「誰だそんな卑しいことを云ったのは」

泰馬は眼を尖らせた。