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おばなさわ

おばな沢

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页

青空文庫

そのくらいの考えだったのである。

その後も英之助はよく来た、節子が承知したことを望外のことのようによろこんでいて、そのよろこびを訴えるようなまなざしで、いつもじっとこちらの顔を見た。

――相良に気がとがめるようで……。

英之助はそんなふうに囁いたこともあった。

兄も彼が来ればかくべつ粗略にするというわけではなく、よく話もするし、食事や酒を出すことも珍しくはなかった。そのくせ彼との結婚問題だけは、今でも気にいらないようすなのである。

兄と口あらそいをした翌日の朝、節子が朝の粥をたべ終ったとき英之助が来た。

「また寝ていらっしゃると聞きましてね、城へ来る使いの者に代ってもらって、お顔だけ見にちょっとお寄りしました、すぐ帰ります」

彼は八重歯の覗く白い歯をみせて、明るくいっぱいに笑ったが、心配し不安に駆られているようすは隠せなかった。

「きっと不摂生をしたんでしょう、女のひとは神経がこまかいようでいて、自分のことになるとまるで投げやりになるんだから、山にいてもそれだけがいつも心配なんです」

「このまえはそうは仰しゃいませんでしたわ――」

節子はつい可笑くなって微笑した。