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おばなさわ

おばな沢

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页

青空文庫

昏れ方になって、もう燈をいれる時刻だと思っていると下城したばかりの身なりで兄がはいって来た。

「相良がみまいに来たのを断わったそうだな」

彼は坐るとすぐにこう云った。雪の中を帰って来たためだろうか、とりはだの立つようなこわい顔で、眼が怒っていた。

「おまえまだあのばからしい誤解がとけないのか、山で口ばしったあの無礼な想像がまちがいだったとまだわからないのか」

「――まちがいでも誤解でもございません」

節子もするどいような眼で兄を見た。

「――戸田を殺したのはあの方です、誰を云いくるめることができても節子をごまかすことはできません」

「よし云ってみろ、それだけ信ずるには理由があるだろう」

「――ございます、理由ははっきりしています、自分で云うのはいやですけれど、節子は相良さまを断わって、戸田へ嫁にゆくことを承知しました」

「相良がその恨みでやったと云うのか」

「戸田がいつも申しておりました、尾花沢で戸田はあの方の部下です、どうかしてうまくやってゆきたいと、いつも申しておりましたし、しまいまでうまくはゆきませんでした。わたし戸田からみんな聞いております」

「それは戸田の曲言だ、それだけで相良が殺したという理由にはならない」