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おもかげ

おもかげ

宮本 百合子

「新潮」1940(昭和15)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,997 字 · 20 页

青空文庫

そういう気質と哲学とは、常識のなかで余り結びつきすぎていて、いやに思えた。哲学がいいという多計代の気持も分って、そしてやはりそこに反撥するものがあった。朝子は、その手紙の中でくりかえし、保がいい友達をつくるよう、その人と相談して根本的な生活をすすめて行くよう、夏休みにはうちの者とばかり暮さず友達と旅行でもした方がいい。そんなことを細々書いた。高校の仲間が、誰も誰も議論のための議論をしたり、自分の物知りをひけらかしたりするために討論したりするからいやだと、保がよく云った。それも尤のようであるけれども、同じ二十歳の高校生である保の言葉としては、朝子も沈着さとしてばかりは聴かれないのであった。

その一事につけても、多計代と朝子とでは感じかたがちがった。多計代は自分の翼の下へ従順な、勤勉な、つましいやがて大学生になる保をとめて置こうとし、常にその身構えで姉との間に立っていた。朝子の生きてゆきかたに保が全部は同意していないことも明かであったが、それならばと云って最後に保は彼をとめて置こうとしつづけて来たものによってもとどめられることは出来なかったのだ。

あるひとつのことを思い出して、朝子は新しい声のない歔欷で体をふるわした。