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おもかげ
おもかげ
宮本 百合子
「新潮」1940(昭和15)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,997 字 · 20 页
朝子は保と九つ年がちがった。そして何度かその話をきいているうちに、追々多計代とはちがった感情できくようになった。朝子には、保のそういう合理的なようなところが却って少年っぽさの無さに思え、何となし性格としての不安を抱いたのであった。
数年前離婚した佃と朝子が結婚したのは、多計代の反対をおし切ってのことであったから、当時佐々の家のなかは、そのことを中心として絶えずごたついた。娘に対して多計代もゆずらなかったし、朝子も娘だからという理由だけでゆずるべきところはないと思ったし、仕舞いには両方ともが泣きながら、激しい言葉をぶつけ合うような場合も起った。或る日、やはりそういう場面に立ち到った。昂奮した多計代は上気した頬へ涙をこぼしながら朝子を罵った。すると、それまで黙ってかげの方にいた保が、紺絣の筒袖姿で出て来て、坐っている二人を見下すところに佇んだ。自然多計代も朝子も黙った。すると暫くして保が、
「姉さん、何故結婚なんかしたんだろう」如何にも深い歎息をもって云った。朝子は思わず顔をあげた。保のふっくりとした顔は蒼ざめていて、ただただそういう衝突が堪え難いという表情である。